はじめに:あの記号の羅列を、真剣に口で読んでいた時代があった
平成あるある~インターネットのURLを「エイチ、ティー、ティー、ピー、コロンスラッシュスラッシュ…」と口に出して読む。
平成の中頃、テレビのバラエティ番組や情報番組のテロップに、見慣れない文字列が現れ始めました。「http://www.〇〇〇.co.jp」——。
「えっと、エイチ、ティー、ティー、ピー……コロン? それからスラッシュが2つ……ダブリュー3つ……」
画面に映ったURLをメモしようとして、口に出しながら一文字一文字確認していた。あるいは友達から「このURL見てみて」と紙に書いてもらったものを、声に出しながら一字一句ブラウザのアドレスバーに打ち込んでいた——。
インターネットが家庭に普及し始めた平成の中頃、URLというものがまだ完全には生活に馴染んでいなかった時代ならではの、この「口で読む」という体験は、平成世代が共有する小さくて懐かしい記憶のひとつです。
本記事では、なぜURLを声に出して読むのが当たり前だったのか、その背景にある日本のインターネット普及の歴史と、あの「http://」という文字列の正体を、事実に基づいて振り返ります。
第1章:「http://」の正体——URLとはそもそも何なのか
テレビや雑誌に掲載された「http://www.〇〇〇.co.jp」という文字列。これは「URL(Uniform Resource Locator)」と呼ばれる、インターネット上の情報の場所を示す住所のようなものです。
URLを構成するそれぞれの要素には、意味があります。冒頭の「http」は「HyperText Transfer Protocol(ハイパーテキスト・トランスファー・プロトコル)」の略で、ウェブ上でデータをやり取りするための通信規約(プロトコル)の名称です。続く「://」はスキームとサーバーのホスト名を区切るための記号で、「www」はウェブサーバーの慣習的な名称、「co.jp」は日本の営利組織を表すドメインです。
このHTTP、HTML(ウェブページを記述する言語)、URLという3つの仕組みを考案したのは、イギリス出身のコンピュータ科学者ティム・バーナーズ=リー氏です。バーナーズ=リー氏はスイス・ジュネーブにある欧州原子核研究機構(CERN)に在籍しながら、1990年に世界初のウェブサーバーとウェブブラウザを構築し、1991年8月6日に世界最初のウェブページを公開しました。URLが国際的な標準仕様として初めて公式に定義されたのは1994年のことです。
第2章:日本でインターネットが普及した「あの頃」の実情
URLを声に出して読んでいたという体験が生まれた背景には、日本におけるインターネット普及の歴史があります。
日本での商用インターネットサービスは1993年に開始されましたが、当初の利用者は大企業や研究機関、技術者が中心でした。一般家庭へのインターネット普及を大きく加速させたのは、1995年の2つのできごとです。ひとつはNTTによる電話料金の定額サービス「テレホーダイ」の提供開始(深夜・早朝の特定の時間帯に限った定額サービス)、もうひとつはマイクロソフトの「Windows 95」の登場です。Windows 95はグラフィカルな操作画面とインターネット接続機能を組み合わせ、パソコンをより多くの一般ユーザーに身近な存在にしました。
しかしそれでも普及には時間がかかっており、総務省の情報通信白書によれば、インターネットの世帯普及率が10%を超えたのは1998年のことです。2000年末の時点でもまだ34.0%にとどまっており、2001年に60.5%、2002年に81.4%へと急増していきました。つまり、URLを見ながら「エイチ、ティー、ティー、ピー……」と声に出して読んでいた時代は、インターネットがまだ日常に完全には溶け込んでいなかった時代でもあったのです。
第3章:なぜURLを「声に出して読む」必要があったのか
URLを口で読みながら入力するという行為がなぜ生まれたのか——それには複数の事情が絡み合っています。
まず、コピー&ペーストという概念が今ほど当たり前ではなかったことです。テレビの画面に映ったURLや、雑誌・新聞に掲載されたURLは、そのままコピーできません。手元にURLがある場合でも、印刷物に書かれたものであれば、ブラウザに打ち込む際に一字一字見ながら入力する必要がありました。
次に、URLの文字列そのものが「読み方のわかりにくい記号の組み合わせ」だったことです。「://」はコロンとスラッシュ2つ。「www」はダブリュー・ダブリュー・ダブリュー。「~」(チルダ)や「_」(アンダースコア)「-」(ハイフン)など、普段の文章では使わない記号が混在しています。どの文字が抜けてもページにアクセスできないため、一字一字確認しながら進める必要がありました。
そしてダイヤルアップ接続の通信速度の問題もありました。当時の一般的なダイヤルアップ接続の速度は非常に遅く、URLを入力してからページが表示されるまでに相当な時間がかかることもありました。だからこそ、入力を間違えてページが表示されないという状況は避けたく、声に出しながら慎重に打ち込む習慣が自然と生まれていました。
第4章:テレビ・雑誌にURLが溢れた時代
1990年代後半から2000年代初頭にかけて、テレビ番組のエンドロールや情報テロップ、雑誌の広告ページ、商品パッケージなどに「ホームページはこちら」としてURLが掲載されることが急増しました。
「http://www.〇〇〇.co.jp」という文字列が画面の端に表示されると、それを必死にメモしようとした経験がある方も多いのではないでしょうか。テレビ番組の場合、テロップが表示される時間は数秒で、急いで「エイチ……ティー……ティー……ピー……コロン……スラッシュ……スラッシュ……」とメモ帳に書き写す、あの緊張感はURLを知っている世代特有の体験です。
企業の広告においても「詳しくはウェブで」という表現とともにURLが掲載されることが増え、URLは「情報の入り口」として急速に社会に浸透していきました。しかし当初は文字列自体が読みにくく、意味が直感的にわかりにくかったため、声に出して確認しながら扱うという文化が育っていったのです。
第5章:「www」はなんと読むのか——あの混乱の記憶
URLを声に出して読む際に、多くの人が悩んだのが「www」の読み方です。
「ダブリュー、ダブリュー、ダブリュー」と3文字読む人、「スリーダブリュー」とまとめる人、「ワールドワイドウェブ」と正式名称で言う人——読み方にはかなりの個人差がありました。また「http」を「エイチティーティーピー」と続けて読む人と、「エイチ、ティー、ティー、ピー」と一文字ずつ読む人もいました。
友人に電話口でURLを伝える場面では、「エッチ、ティー、ティー……」と始めて「それってどう書くの?」と聞き返される場面も少なくなかったようです。当時は「://」の「スラッシュスラッシュ」や「.」(ドット)など、記号の名称をうまく伝えることが会話のひとつのハードルになっていました。
第6章:URLの「省略」が進んだ時代——「http://www.」が消えていくまで
平成から令和にかけて、URLの扱い方は大きく変化しました。
まず、多くのウェブブラウザで「http://」の部分がアドレスバーに表示されなくなっていきました。Googleクロームをはじめとする現代の主要ブラウザでは、「https://www.」の部分を省略し、ドメイン名だけを表示するのが標準的になっています。
また、セキュリティの観点から「http」に代わって「https」(Hypertext Transfer Protocol Secure)が主流となり、より安全な通信が広まりました。さらにQRコードの普及により、URLを手で打ち込む必要そのものが大幅に減少しました。スマートフォンのカメラでQRコードを読み取れば、長いURLを一文字一句入力する必要がなくなったのです。
「エイチ、ティー、ティー、ピー、コロンスラッシュスラッシュ……」と口に出しながらキーボードを叩いていたあの行為は、インターネットが「新しいもの」だった時代にしか存在しえない体験でした。
まとめ:声に出して読んだあの文字列が、デジタルへの入り口だった
「エイチ、ティー、ティー、ピー、コロンスラッシュスラッシュ、ダブリュー、ダブリュー、ダブリュー……」。平成のインターネット黎明期、あの長くて読みにくい文字列を一字一句声に出して確認しながら打ち込む作業は、デジタルの世界への入り口を自分の手で開く行為でした。
インターネットの世帯普及率が急速に上昇していた1990年代後半から2000年代初頭、URLという概念がまだ「特別な知識」として扱われていた時代。テレビ画面に映ったURLを必死にメモしながら「コロンのあとスラッシュ2つだったっけ?」と確認していたあの緊張感は、現代のスマートフォン世代には想像のつかない、平成ならではのデジタル体験です。
あの「声に出して読む」という行為の中に、新しい世界の扉をおそるおそる開こうとしていた平成の人々の姿がありました。
本記事は、URLおよびHTTPの歴史、日本のインターネット普及に関する総務省情報通信白書等の公開情報に基づいて執筆しています。
💾 平成あるあるリンク & サイト横断
この記事とあわせて読みたい平成ネタ
昭和より新しいけど懐かしい平成の話をもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。
