平成あるある~「塩麹」のブームに続き、「食べるラー油」「塩レモン」など、万能調味料ブームが次々と食卓を席巻する。
平成という時代は、テレビの情報番組やクチコミ、そして普及し始めたブログやレシピ投稿サイトを通じて、次々と「ブーム食材」が生まれた時代でもありました。中でも今なお強く記憶に残っているのが、家庭の食卓を一気に塗り替えた万能調味料の数々です。塩麹に始まり、食べるラー油、塩レモンと、まるでリレーのように次々と話題の調味料が登場しては、スーパーの棚から商品が消えるほどの人気を博しました。当時を知る世代であれば、「あの頃は猫も杓子も塩麹だった」「食べるラー油を求めて何軒もスーパーをはしごした」という記憶がある人も多いのではないでしょうか。今回は、平成のあるあるとして語り継がれる「万能調味料ブーム」を、当時の背景や社会情勢とともにじっくりと振り返ってみたいと思います。
1.魔法の調味料と呼ばれた「塩麹」ブームの始まり
平成の調味料ブームの火付け役といえば、やはり塩麹です。塩麹自体は麹と塩、水を混ぜて発酵させただけの非常にシンプルな調味料で、もともとは東北地方などで魚や野菜の漬け床として古くから使われてきました。決して新しい発明品ではなく、いわば「眠っていた伝統食材」だったわけです。しかし、この昔ながらの調味料が一躍脚光を浴びたのは平成23年(2011年)のことでした。
きっかけを作ったのは、大分県佐伯市にある老舗麹屋「糀屋本店」の九代目、浅利妙峰さんです。かつては各地に麹屋があったものの時代の流れとともに廃れていくなか、浅利さんは家業を立て直そうと江戸時代の文献を読み漁り、そこに残されていた「塩麹」という言葉をヒントに研究を重ねます。そして、漬け床としてではなく調味料として使うレシピをブログや書籍を通じて発信したところ、口コミで一気に広まっていきました。
魚や肉、野菜にまぶすだけで驚くほど旨味が引き出せる手軽さと、発酵食品らしい体に優しいイメージが重なり、平成23年から24年にかけてスーパーやネット通販では品切れが相次ぐほどの人気となります。テレビの情報番組でも頻繁に特集が組まれ、「とりあえず塩麹をまぶしておけば美味しくなる」という感覚が、多くの家庭に浸透していきました。塩麹をきっかけに、甘酒や醤油麹といった発酵調味料全般への注目も高まり、いわゆる「発酵ブーム」の土台を作った存在ともいえます。
2.ご飯のお供の概念を変えた「食べるラー油」旋風
塩麹ブームに続いて訪れたのが、調味料でありながらおかずのように食べる「食べるラー油」の大流行です。そのきっかけとなったのは、平成21年(2009年)8月に発売された桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」でした。フライドガーリックやフライドオニオンといった具材がたっぷり入ったラー油は、それまでの「調味料としてかけるだけのラー油」というイメージを一新し、ご飯にのせるだけでひとつのおかずになる新感覚の商品として大きな話題を呼びます。
発売直後から人気に火がつき、発売から1年半が経過しても品薄状態が続くほどの絶大な支持を集めました。それまで年間13億円程度だったラー油市場が、この商品の登場によって100億円を超える規模にまで拡大したというデータもあるほどで、この大ヒットを受けて他メーカーも続々と類似商品を発売し、いわゆる「食べるラー油戦争」と呼ばれる激しい競争状態にまで発展していきます。牛タンや鮭、柚子、明太子などを使った変わり種商品も登場し、コンビニやスーパーの棚には各社の食べるラー油がずらりと並ぶ光景が見られました。名前のインパクトと、ラー油市場そのものを大きく押し広げたインパクトの両面から、平成を象徴する調味料ブームのひとつとして今も語り草になっています。
3.モロッコ生まれの発酵調味料「塩レモン」の人気
塩麹、食べるラー油に続いて平成中期から後期にかけて注目されたのが「塩レモン」です。塩レモンはレモンを丸ごと、あるいはくし形に切って塩に漬け込み、数週間から数か月かけて発酵させた調味料で、北アフリカのモロッコでは味噌や醤油のように昔から各家庭で手作りされてきた伝統食材です。
日本では平成22年(2010年)頃、タジン鍋をはじめとするモロッコ料理ブームとともに徐々に知られ始めました。その後、平成25年から26年(2013〜2014年)にかけて、レシピ投稿サイトを中心に検索数が短期間で大きく伸び、20代から30代の女性層を中心に一気に人気が広がっていきます。爽やかな酸味とまろやかな塩気が、鶏肉料理や魚料理、サラダ、パスタなど幅広いメニューと相性が良く、「これひとつで料理の味が決まる」万能調味料として脚光を浴びました。この年の食トレンドを選出するいくつかの賞でも塩レモンが大賞に選ばれるなど、当時の盛り上がりは非常に大きなものでした。瓶に詰めた黄色いレモンの見た目もおしゃれで、写真映えする調味料として広まっていった側面もあります。
4.なぜ万能調味料ブームは次々と生まれたのか
塩麹、食べるラー油、塩レモンと、性質の異なる調味料が立て続けにブームとなった背景には、いくつかの共通点が見えてきます。まず、どれも「これひとつで味が決まる」という手軽さを打ち出していた点です。共働き家庭が増え、家事にかけられる時間が限られるようになっていた平成において、複雑な調味料を何種類も組み合わせずに済む万能調味料は、時短ニーズにぴったりと合致していました。
さらに、発酵食品や自然由来の素材への健康志向の高まりも見逃せません。塩麹や塩レモンはいずれも発酵の力を活かした調味料であり、「美容や健康に良い」というイメージが特に女性層を中心に強く支持されました。加えて、テレビの情報番組や、当時普及し始めていたブログ、クックパッドをはじめとするレシピ投稿サイトによって、ひとたび話題になった商品の情報が一気に全国へ拡散されやすい環境が整っていたことも、ブームが短期間で広がった大きな要因といえるでしょう。ひとつの調味料がヒットすると各メーカーが追随して類似商品を発売し、市場全体が盛り上がっていくというサイクルも、平成の食品トレンドに共通して見られたパターンです。
5.平成の調味料ブームが今の食卓に残したもの
塩麹や食べるラー油、塩レモンは、ブームが落ち着いた今でもスーパーの調味料コーナーに定番商品として並び続けています。一時的な流行で終わらず、家庭の常備調味料としてしっかりと定着した点は、これらの調味料が持つ実力の証といえるかもしれません。実際、塩麹は今や和食の基本調味料のひとつとして扱われ、食べるラー油も専門コーナーができるほど多くのバリエーションが定番化しています。
振り返ってみると、平成という時代は、ひとつの調味料が発売されるたびに食卓の景色がガラッと変わっていくような、そんな面白さと勢いがありました。品薄のスーパーを何軒も回ったり、手作りの塩麹や塩レモンを瓶に仕込んで発酵の様子を毎日眺めたりと、調味料ひとつをめぐって多くの人が一喜一憂していたのも、今となっては懐かしい平成あるあるのひとつです。次にどんな万能調味料がブームになるのか、令和の食卓でもその系譜はまだまだ続いていきそうです。あの頃、家族や友人と「今度これ試してみようよ」と話しながら新しい調味料を買いに走った記憶は、平成を生きた人にとって共通の懐かしい思い出として、これからも語り継がれていくことでしょう。
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